★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★  第95号                     1994年6月29日 宇 電 懇 ニ ュ ー ス                         宇宙電波懇談会事務局発行                          (国立天文台野辺山) ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 目   次 ┌─────────────────────────────────┐ │ I .1994年度宇電懇シンポジウム サーキュラー No.1 .... 1 │ │ II .LMSA検討会報告 .................................. 3 │ │ III .宇電懇ネットワークの開設について .................... 7 │ │ IV .日本の電波天文の将来と宇電懇の役割(田原博人)....... 8 │ │ V .自治組織宇電懇の役割と規範(石附澄夫)............... 9 │ │ VI .基礎科学大国ニッポンの実現に向けて(阪本成一)....... 10 │ │ VII .運営委員、電波研連J分科委員選挙結果 ................ 12 │ │ VIII.1990ー93年度会計報告 .......................... 12 │ │ IX .会員異動 ............................................ 13 │ └─────────────────────────────────┘ I. 宇電懇シンポジウムサーキュラー No.1 LMSA計画の推進と 日本の電波天文学の将来  現在天文研連の長期計画小委員会などの場で,日本の天文学の将来計画が盛んに議論 されています。そこで電波天文における将来計画を検討し、少なくとも今後10年間の 方針を議論するために、上記シンポジウムを開催したいと思います。  また電波天文の次期大型将来計画である大型ミリ波サブミリ波干渉計(LMSA)計 画を推進するために、具体的な装置計画・推進体制などを決定する時期に来ています。 同時に他の将来計画との協力・整合性も含めて議論する必要があります。また、LMS Aに対してアメリカからの共同研究の提案もあり、国内の研究者を組織し協力していけ る推進体制を確立して行かねばなりません。  LMSAや他の将来計画について具体的に議論し、電波天文の針路を考えるシンポジ ウムにしたいと思います。 ◎開催日時:9月26日(月)の週のうち3日間 ◎開催場所:東京近郊 調整中  意見・要望を世話人宛にお知らせ下さい。    世話人 川辺良平(NRO)、 石附澄夫(東北大)        水野 亮(名古屋大)、小林秀行(宇宙研)   連絡先  石附澄夫      〒980-77 仙台市青葉区荒巻字青葉 東北大学理学部天文学教室 プログラム案 ○LMSA計画    LMSAのめざすサイエンス    現状報告      サイト調査報告      国際協力の現状(ワシントン会議の報告)    計画のマスタープランの提案      開発スケジュール 開発人員体制 予算規模 ○野辺山の将来計画    野辺山45mの将来 野辺山ミリ波干渉計の将来 観測所の将来 ○各大学・機関の将来計画    名古屋大4mの将来    東大60cmの将来    富士山サブミリ波計画    早稲田望遠鏡の将来 ○VLBIの将来計画    国内ネットワーク計画   次期スペースVLBI計画 ○まとめと議論 II. LMSA検討会 報告 (ミリ波サブミリ波アレイにおける日米協力についての協議を中心に)  前回の宇電懇ニュース(第94号 1994年4月25日発行)で報告致しましたよ うに、ミリ波サブミリ波アレイにおける日米協力の可能性を探る議論が始まっておりま す。前回の報告以降、Smithsonian Submillimeter Array(SMA)関係者との接触、野辺山観測所内外での議論・宇電懇総会での報告や第2回 の日米協力についての会議(ワシントン 6/16,17)がありましたので、ここでは紙面の都合もありそれらの要点を報告致します。 詳しい議事録や資料は主要機関等には逐次配布しておりますが、必要な方はLMSAワー キンググループ世話人奥村幸子(か菊池菊江)までご連絡ください。今回の内容に対応した議事録・資料の 番号も以下に付けましたので、連絡の際必要な番号をお知らせいただければ幸いです。 なお、現在事務局を中心に宇電懇会員のネットワークをつくる準備が進んでおり、 LMSA関連の報告は宇電懇会員に対しては E-mail による配布も予定しております。 内容  I.(国際協力を考える上での)重要観点(94/5/16 資料番号1)    II.ワシントン会議のための準備会 報告(94/5/31 資料番号1)   III.ワシントン会議報告(94/6/21 資料番号2) I.LMSA計画推進:(国際協力を考える上での)重要観点  1.日本のミリ波天文学の継続性・発展性  2.サブミリ波天文学の天体物理学的意義とその多様性  3.日本の技術レベル・マンパワーの評価  4.LMSA計画と大学など日本の電波天文コミュニティとの関係 I.のまとめ  MMAとの国際協力についての考え方としては、上記4点について我々の基本的立場 をはっきりさせる必要があるが、MMAが先行して予算がつく状況下で我々日本の電波 天文コミュニティはめざすサイエンスとそれを支える技術の発展をどう確保していくか、 が大きな緊急の問題である。具体的には、 MMAができ始めて  (First light 1999年)から LMSA(First light 2003-2005年か)まで5年程度のギャップがある。この5年のギャップの間どうすべき か、でMMAとの国際協力の在り方が決まるのではないだろうか? (5/16  LMSA WG) II.ワシントン会議のための準備会 報告  1. ハワイでのアンテナ配列に関するレポートの紹介  石附氏の行なったハワイ山頂付近でのアンテナ配列の検討結果とHoldaway & Owen の行なった "LSMA-MMA Joint Configuration Studies: Preliminary Ideas"の紹介(資料あり)である。石附レポートより、これまでLMSAワーキンググルー プが考えていた仕様(10mx50素子、0.1 - 1.0"分解能、一部移動式)は、ハワイ山頂付近でも可能な解があることがわかった。 Holdaway & Owen report では、まず、単にいままで提出されたLMSAとMMAの配列のままで visibility を加え合わせただけでは有効でなく、相互の相関をとりさらに両者の配列に修正を加え るという案が出された。これにより、LMSAが 0.2"-0.5"の分解能を実現できる1配列を、MMAが 0.1", 0.2", 0.5"-3.3"の分解能を実現できる3配列を担当することになる。修正されたLMSAの配 列では、低い空間周波数成分(短いベースライン)がほとんどなく、単独で使用して精 度のよいマップをつくるのが難しいであろうという意見がでた。次に、最も良い案とし て出されたのは、90素子を(単独使用を考えずに)統合して使うというものであった。  両者の比較から、LMSAでは、位相補償法によるブレイクスルーが困難な場合も想 定して、常に30ー40%の無駄を承知で、大気条件に応じてダイナミックにスケジュー ルできるように小アレイ(小さい配列)を常備することが重要で効果的と考えているが、 MMAにはそのような配慮がない(小さい配列はアンテナ移動しないと得られない)、 ということがわかる。また、アンテナ配列は、位相補償法をどの程度確立できるか、サ ブミリ波にどのくらいの重点をおくかによって大きく変わる。  2. ワシントンに向けての議論 2.1.国際協力を考える際重要とされた観点についての意見     日本の技術レベル・マンパワーの評価に関連して、(アメリカと比べると)電波天文研 究者、技術者の人数には大きな差があるが、技術レベルについてはそれほど悲観するこ とはないのではないか。日本のミリ波天文学の継続性・発展性という観点を考慮して (も)サブミリ波への拡張性を重視すべきである。(ミリ波が多少犠牲となっても、サ ブミリ波帯(490ー800GHz)でも十分力を発揮できる装置にするということ。)  2.2.LMSAをハワイに設置する場合の条件・問題点 CSO(山頂)とMMAの建設予定地であるVLBAサイトの大気透過率のデータを比べてみ ると、VLBAサイトの方が山頂より225GHzの透過率が平均で40%程悪い。49 0GHz以上のサブミリ波帯では条件はもっと悪くなる。サブミリへの拡張性を重視す るということになると、VLBAサイト(標高3500m)よりSMAの予定地(山頂;4 200m)のほうがよいであろう。ハワイ島山頂付近の天文施設の使用状況などを考え ると、LMSAがMMAにもSMAにも協力しないで、独自にハワイにアレイを設置すること はほとんど不可能である。ハワイでサブミリ波重視ということになるとSMAとの協力が 不可欠であろう。  2.3.SMAとの協力について     (日本にかなり都合のよい仮定ではあるが、)SMAのFirst Light(1997)から7ー8年後にSMAを(何らかの形で)含んだLMSAができるとした場合、 どのような協力体制になるか考えてみる。現在First Light(1997)にむけてSMAの開発はかなり進んでいる。サブミリ重視ということや一旦完 成したら大きな改造などしないことを考慮してアンテナやアレイのデザインについては、 現在SMAで進んでいるものを日本も基本に考えていいのではないか?その場合はSMAの アレイデザインに日本側から修正提案することも考えられる。逆に7ー8年後であれば 当然受信機や相関器等はその間の進歩を取り入れ新たに開発することになるであろう。 以上のような協力でも、6素子の干渉計と50素子の干渉計の開発は質的に大きく異な るであろうから日本に技術的な蓄積はできるであろう。    LMSAのサイト決定の条件は、まずは、Scientificにサブミリ波観測が行なえる条 件が良いところにすべきで、急ぎチリ山岳部の冬の(ラジオメータ、シーイングモニタ の)データを取りハワイのもの(山頂、VLBAサイト)と比較する。(9月末あたりに はチリの結果が出る予定。)     Scientificなファクターが一番重要ではあるが、電波シーイングなどの気象条件 がハワイに比べ、チリでさほど良くない場合は、すばるを含めたインフラストラクチャ を考慮してハワイを LMSAサイトとすることを考えるべきである。  3. ワシントンでの方針  以上のような議論を踏まえ、ワシントンでは、サブミリ波への拡張性を重視する点か ら、(MMAというよりはむしろ)SMA(スミソニアン)との協力の可能性がある、と いうことを伝える。これはサブミリ波への拡張性を重視し、ハワイ山頂とVLBAサイト の大気透過率のデータ比較(3.b参照)や日本として小アレイが常備されていることを 重要と考えた結果である。(ワシントン会議出席者を含む拡大LMSA検討会議事録より  5/31) III.ワシントン会議報告  会議出席者は、以下のとおり。 NRAO    :B.Brown, K.Kellerman, P.Napier Smithsonian:P.Ho, J.Moran, M.Reid, I.Shapiro, E.Silverberg, B.Hoffmann,   R.Simons 日本    :石黒、稲谷、森田、中井、石附、海部、林正 出席者による正式な英文の議事録が出る予定であるが、以下は重要と思われる点の報告 である。  1. SMA, MMA, LMSAのステータスレビュー(内容抜粋) SMA:1997年完成予定で、1995年5月に地鎮祭(ground braking ceremony )を行う予定である。総額48 million dollars( 2 mil.$/6m ant., 1.5mil.$/RX&IF, 2.7mil.$/correlator)。サブミリ波で連続波(塵)観測を行なう場合は、分光してライン のコンタミネーションを取り除く必要がある、とのコメントが出た。 MMA:R&Dが1996ー97年、建設1998年からで、総額174 mil.$(1994年の見積で、65mil.$/50ant.)。これについては安すぎるのではとの意見 が出た。LMSA:省略  2. サイト評価と日本(LMSA)の意見  ハワイVLBAサイト(3700m)と CSO(山頂)の比較では、季節的な条件のよい4月でVLBAサイトが CSOより大気透過率が3ー4割悪い(日本から資料提出)。条件の厳しい7ー8月はもっ と悪くなるであろう。日本としては、サブミリ重視で、チリかハワイ山頂を(LMSAの) 建設予定地として考えており、どちらにするかはチリの調査結果(大気環境)とインフ ラなどの条件を考慮して決定する。サイト調査に関しては、7月からハワイVLBAサイ ト(NRAO設置)とチリ(パラナル他)にもシーイングモニタが置かれる。NRAOの使っ ていたInfrared radiometerを使ってNROとNRAOの両者の225GHz Radiometer を較正することができ、直接データを比較することが可能になる。  3. LMSAとSMA/MMAとの関係 SMAの意見:(海部氏が)日本がSMAとジョイントすることをどう思うか とSMA側に尋ねた所、Shapiro氏(スミソニアン天文台台長)から以下のような回答を 得た。  1)SMA側は、まず今計画中のSMA(6素子サブミリ波干渉計;1997年観測開始) を成功させることが目標である。  2)SMA成功後の協力に関して、サイエンスの面から協力には非常に関心がある。  3)その場合スミソニアンがマイナーパートナーになるような協力関係を心配してい る。 また、MMA/LMSAともチリに建設することになった場合の二者との協力に関しては、南 北で観測時間を交換する可能性はある、との意見があった。その他、もしLMSAがハワ イ山頂を建設予定地とする場合は、(具体的に動きだすのは SMA成功後であるから)SMA のアンテナ配列に必ずしも捕われる必要はない、という意見や、石附氏の提案したアン テナ配列に関して、山頂の forbidden regionにかかること及びMMAと同じ標高にもアンテナを置いてはどうか、とのコメント があった。 MMAの意見:MMAは、”ミリ波の完全なイメージング装置”として安定な共同利用を 目指しているので、ハワイであれば VLBA サイトから山頂へいくことはないであろう。チリに(ハワイより)よいサイトがあり、 かつ、日米協力で建設する場合のみ、MMAはチリをサイトとして考える。  三者が協力して(1つの)大型アレイができないのか、との質問に対しては、それぞ れの獲得目標の違いなどが挙げられた。ただ、観測的に三者が連係することは有りうる という見解が述べられた。  4. 今後の予定(順不同) (1)(日本として)ハワイ大学との接触・・・94/9のハワイ Users Meetingに出席し、LMSA計画の詳細を紹介できるようにする。 (2)次回会議・・・各サイトのデータを持ち寄り、サイトの比較検討を行ない、サイ ト報告書を作成する。来年早々を予定している。 (3)次次回会議・・・SMA Ground Braking Ceremony(95/5)あたりハワイか。  5. 日本のアクションアイテム(下線はまとめ役) (1) チリのサイトテスト・・・メンバーは、石黒、川辺、斎藤正、河野他で、タイムスケー ルは、ここ半年ー2年(国際学術調査)。 (2) (ハワイの)アレイデザイン・・・メンバーは、石附、森田で、タイムスケールに関し ては、まず94年9月のハワイUsers Meetingを目標に、半年ー2年か。 (3) サブミリ波アンテナ・・・ハワイ山頂での風の影響など考えた検討が必要。メンバーは、 現在の所、石黒、稲谷であるが、新人募集(外国人も対象)。 Essco、三菱などにも検討の協力をお願いする。タイムスケールは、ここ半年でまず具 体的に動き出すこと。 (4) LMSAによるサブミリ波天文学・・・サブミリ波天文学の天体物理学的意義とその多様 性という問題に関して、現在 JCMTやCSOを使って精力的にサブミリ観測を行なっている人と直接議論するための (外国人を含めた)ミニWSを企画する(NRO 主催:インフォーマル)。WSの形式、発表者など現在、検討中。メンバーは、砂田、 奥村幸、山本智、阪本成/長谷川で、タイムスケールはここ1年。 (5) 0.1"を実現する位相補償法の確立・・・メンバーは科研費(試験研究 代表:石黒正人) グループで、タイムスケールは2ー3年か。  スミソニアン天文台台長の発言を踏まえ、ハワイで(extended )SMAと協力する場合のやり方 (equal partnership?) を考えておく必要がある。また、LMSAを含めた野辺山宇宙電波観測所の将来像・体 制について議論しておくかなければいけない。(6/21 拡大LMSA検討会議事録 より) 以上                 (LMSA WG世話人 奥村幸子) III. 宇電懇ネットワークの開設について  現在事務局では、宇都宮大学の加藤氏の協力を得て、宇電ネット(仮称)開設に向け て準備しています。このネットワークを利用して宇電懇ニュースを配布することで、宇 電懇ニュースの迅速な配布・経費/人力の節約が可能となるメリットがあると考えてい ます(ネットワークが利用できない機関については、従来通りに宇電懇ニュースを配布 するつもりです)。また、宇電懇会員に関係すると思われる研究会などのさまざまな情 報も流せれば、より有意義なものとなると考えています。ただ、天文ネットの初期の頃 の混乱に見られるように、ネットワークの利用のルールなどや利用法など、まだまだ検 討するべきことがあると考えています。現在、加藤(宇都宮大)、西尾(NRO、宇電懇 事務局)、砂田(NRO、宇電懇事務局)の3者でネットワークの運用形態などを検討中 であります。  現在、以下のステップをふみ開設に向かっていきたいと考えています。 1.ユーザーズミーティングにて、具体的運用の形態のアイデアを提示 2.ユーザーズミーティングにて、アンケートなどにより会員の意見を聞く。さら   に、宇電ネットへ登録しても良いという会員の仮登録と全会員の電子メイルア  ドレ スのデータベース作成。 3.会員の意見を反映させて最終的な試験運用の形態を決定(8月末) 4.9月頃から、試験運用 5.12月中旬、最終的な運用形態への修正と宇電ネット参加希望者の本登録の開   始 6.来年1月、本運用開始 以上のように考えて進めていく予定です。宇電ネットに関する意見等がございましたら、 以下にお願いいたします。        砂田和良         郵便  :〒384−13               長野県南佐久郡南牧村野辺山 国立天文台野辺山 IV. 日本の電波天文の将来と宇電懇の役割                      田原博人(宇都宮大学教育学部)  宇電懇の性格を単純化すると、電波天文学の後援会といえよう。しかも、東京天文台 の電波天文学の推進が中心であった。その期待に沿うだけの力量を天文台側がもってい たこともあり、現在のあるような飛躍を遂げてきた。宇電懇の組織が、現在の野辺山を 作り上げていくのには大きな成功をおさめたが、国立天文台以降は、宇電懇が組織とし て大きな役割を果たすことはなくなった。それが宇電懇解体として問題提起でもあった。  ところで、解体するほどのエネルギーがなかったのか、宇電懇を必要としていたのか、 明確でないまま現在に至っている。エネルギーが無いというのは、電波天文学が衰退し ているということを意味して言っているわけではない。野辺山の共同利用、自前の設備 充実等もあり研究者自身、結構仕事ができるようになり、宇電懇としてのハングリー精 神を発揮する必要性がなくなったことである。  5月に実施した宇電懇運営委員会の選挙で委員が大幅に若返った。何人かを推薦した 一人として言うのはおかしいかも知れないが、推薦が適切であったのか、推薦の形式に 問題があったのかは別として、結果としては推薦通りの人が選出されてしまった。選挙 者の主体性がなかったのか、推薦者が支持されたのかはわからないが。いずれにしても、 大幅な若返りは、今後の宇電懇を考えるとき象徴的なできごとである。  こうした状況の中で、大型ミリ波サブミリ波アレイ(LMSA)が次期天文学の大型 計画として浮上してきている。この推進は宇電懇の総意でもあり、喜ばしいことには違 いない。しかし、わが国がリーダーシップを維持しながら、国際協力の中で、計画の実 現を目指すためには、従来方式の宇電懇では、その存在意義が問われるというものであ る。とくに、将来計画の推進は若手の手に委ねられているとの自覚が必要であり、運営 委員会の若返りが意味をもつことになる。  さて、新しく宇電懇に何が期待されるであろうか。それは後援者(誰かが進めるのを 見守る良き傍観者)の集団から電波天文を進める主人公の集団になることではなかろう か。自分の属しているところで、きちとした将来計画をもち研究に取り組むことである。 それを基盤として、大計画への役割を自覚することである。各自が将来計画をもつこと は、そこに装置をつくっていくことを必ずしも意味しない。それより、野辺山をいか自 己の学問に位置づけ、有効に活用するか、さらに若手研究者の育成にどう取り組むかで ある。このことは、野辺山を研究機関としてとらえるだけでなく、若手研究者の教育機 関としての位置づけが重要で、共同利用のありかたも抜本的に見直す必要がある。  宇電懇の活動の柱として宇電懇ニュースの抜本的な改変を試みようとしたが、大学の 自己点検・評価の責任者として、その仕事に力を入れなければならなかったこともあり、 中途半端になった。充実の試みとしては、宇電懇ニュースNo92「宇電懇の今後のあ り方」の中に述べたところであるが、要は多くの研究者のアイデアと見解が集約されこ とである。今回、事務局からの原稿依頼の狙いもそこにあったのかもしれないが、大い に発言し、我々の宇電懇として育てることが重要である。このことは結果として電波天 文の発展に結びついていくことになると考える。 最後にもう一度、「未来は若者の双肩にかかっている」ことを。 V. 自治組織宇電懇の役割と規範 石附澄夫(東北大学理学部)  野辺山宇宙電波観測所の建設から12年が経ち,我々はミリ波天文学の分野で多くの成 果を挙げてきました.現在は,今までの成果の上にさらに発展するべく日本の電波天文 学コミュニティーの意志として将来計画を決定すべき時期になっています.いま,我々 日本の電波天文学のコミュニティーは次期将来計画として大型ミリ波サブミリ波干渉計 (LMSA =Large Millimeter and Submillimeter Array)計画を検討しています.こういった自らの発展の方向を決める岐路に立っている 我々に必要な規範は何でしょうか.  先日,月刊誌「パリティ」の4月号(1994年)に,「物理学の危機,物理学会の危機」 (by Schweber, 家泰弘 訳)という記事が出ていました.そのなかで,天体物理学・宇宙論 は,素粒子物理学とともに,変革しつつある物理学の大勢とは異なって「その発展が, その分野の中での新発見とその分野独自の概念構造に基づいて,内的にのみ決まる科学 分野として残された数少ないものである」とされており,その研究者のコミュニティー は「コミュニティーとしての目標とその達成手順を設定する上で何物にも制約されない」 と述べられています.  われわれ宇電懇は,まさにここに述べられた「コミュニティー」としての特質を持っ ていると思います.すなわち,電波天文学の新発見と電波天文学という学問の概念構造 とによってのみ自らの発展の方向を決定し,政治状況や実用性といったことにふりまわ されてはいけないという規範を自らを課さなくてはならないということです.言葉で言 うのは簡単ですが,この規範を実行するためには,電波天文学での新発見をし,かつ, 電波天文学という学問の概念構造を構築するというたいへんな仕事を成し遂げているこ とが前提になるわけです.  これが私にとっての宇電懇のありかたで,そういう日本の電波コミュニティーの拡大 再生産をするというのを,具体的な将来計画を議論する上での前提として自らに課した いと考えています. VI. 基礎科学大国ニッポンの実現に向けて   阪本 成一 (東京大学理学部天文学教育研究センター)  これからの日本の天文学の進むべき道はゲリラ戦なのだろうか.我々は今後も学問の 王道を歩むことはできないのだろうか.アメリカに勝てるはずはないのだろうか.先日 行われた拡大LMSA検討会に出席しながら,私は屈辱的な気持ちでこのことについて考 えていました.アメリカと日本の天文学研究の現時点での活動性を冷静に比較すると, 確かにアメリカは圧倒的です.これにはそれなりの背景があるのでしょうが,これが到 底打破できないものであるようには私には思えないのです.この日本の天文学研究の活 動性の低さはその他の基礎科学研究の活動性の低さと同じところに根ざしているように 見えますので,我々が他の分野の研究者に先んじて問題を打破することは,日本の基礎 科学研究の今後の興隆に対して大きな貢献となるものと信じています.  かなり以前のことになりますが,天文・天体物理若手の会夏の学校で天文学の将来計 画のあり方について発表する機会がありました.この発表の資料とするために,観測所 の活動性を低下させている要因について観測施設の施設長クラスの方々に伺ったことが あります.アンケートへの回答は12の観測施設から寄せられ,その内容の大筋は以下に 集約されるようなものでした.   ・研究者や技術者の数   研究者が装置開発や観測オペレーション等の全てを行わねばならない   文部省以外の管轄の研究所(通総研等)で大学院生をとることができない   ・研究者や技術者の質     独創性に欠けている    人事の交流が活発でない   ・予算  基礎科学研究費の予算総額が少ない   営繕費等の臨時の財源が保証されていない.   ・業務の非能率    事務処理が年度の切れ目で停止する    観測所勤務が交代制になっていることによる業務の不連続性がある   ・既存の装置の性能  中小口径観測装置が充実していない   観測の自動化が進んでいない  これから明らかなように,日本の天文学研究の活動性があまり高くない理由の一つに は,研究者や技術者の質的,量的な乏しさがあげられます.このうち研究者の質的な乏 しさについては,必ずしも研究者の資質に起因するものではなく,研究者の量的な乏し さを補うために忙殺されていることに起因するものとも考えられます.理由のもう一つ には予算の不足があります.日本人の国民性として,国益に直結する応用技術を偏重す る傾向があるからです.また成果を要求するためにはそれなりの投資,すなわち納税が 必要だということを把握できていないからです.しかし国民性を云々する以前に我々は, 学問的な成果をあげて論文を書くことこそすれ,それを納税者にとって興味のもてる形 で還元する義務を疎かにしてきたことについて,大いに反省せねばなりません.もっと 納税者を楽しませる必要があるのではないでしょうか.人員や予算の問題の中には,天 文台内部に根ざしているものもあります.観測所を build するばかりで,顕著な成果を出すことができなくなった観測所を scrap しないままでいるために,予算やポストの有効利用ができなくなってはいないでしょう か.解雇しないまでも異動させればよいのです.これは強者の論理で,いわゆるタブー の類に属するものですが,いつまでもこのままでよいとは思えません.  このアンケートで何よりも残念だったのは,原因がこれだけ明らかなのに問題を解決 しようとせず.諦めてしまっていることでした.既存の制度の不備や無能な政治家の責 任にしているのです.今まで我々研究者は,優れた研究に必要な優れた装置を開発する ために技術者を積極的に主導してきましたが,優れた研究に必要な優れた研究環境を築 くために官僚に働きかけることについては消極的でした.優れた研究環境がどのような ものかについて最もよく知っているのは我々研究者ですから,我々自身の手で研究環境 を変革することを諦めてはいけないのだと思います.アメリカに勝てないはずがないの に,勝てないものだと信じ込まされてはいけないのです.  基礎科学の大型将来計画の筆頭となるべきLMSA計画は,日本の基礎科学研究の形態 の大変革を迫る方向で進めていくべきです.  私はアメリカが独自に進めてこれたことが日本にできないはずはないと信じています. 我々は,そう遠くない将来にゲリラ戦でではなく学問の王道で真っ向勝負をできるよう にすることを目指すべきです.なぜアメリカにはできたのか.これを知るべきです.国 外に流出したり諦めたりするのはまだ早過ぎると思います.我々が今直面している問題 は,解決に時間のかかる問題ではありますが,避けては通れない問題であることも確か です. VII.選挙結果 1.第XIII期宇電懇運営委員、および運営委員長 選挙結果        委員 委員長 ◎ 1 田原 博人 28  25 2 岩田 隆浩 24   1 3 小林 秀行 23    1 3 坪井 昌人 23   1 3 水野  亮 23 6 石附 澄夫 21 7 石黒 正人 20  15 8 川辺 良平 19 9 阪本 成一 11    10  半田 利弘  9     次点  福井 康雄   8   2 稲谷 順司   6               (投票人総数 52名)    以上の結果、上位10名が運営委員に、田原博人氏が委員長に決定した。 2.電波研連 J分科委員選挙結果 1 稲谷 順司 37 2 大師堂経明  35 3 小島 正宣 16 4 河野 宣之 12 5 目 信三    5 6 石黒 正人   3 7 海部 宣男  1 8 森本 雅樹  1        (投票人総数 56名)    以上の結果、上位3名を推薦することになった。 VIII. 1990ー93年度会計報告 収入   繰越金 349,484 会費(90ー93年度徴収分、879口)    879,000 ───────────────────────────────   合計 1,228,484 支出   20周年記念シンポジウム関係 356,798   (招待者旅費、シンポ関連経費等)   ニュース(10号分及び名簿等、発送費含む) 657,856 ───────────────────────────────   合計                   1,014,654 繰越金                      213,830 IX. 会員異動 (1992年9月以降) 1.入会   尾林 彩乃  93年入会  東京学芸大学第三部地学教室   徳重 哲哉  93年入会  姫路科学館   御子柴 廣  93年入会  国立天文台野辺山宇宙電波観測所   観山 正見  93年入会  国立天文台理論天文学研究系   小坂 義裕  94年入会  富士通宇宙システム本部 2.退会   磯部 秀三  国立天文台光学赤外線天文学研究系   小野 忠良   名古屋大学理学部物理学教室   加藤万里子  慶応義塾大学天文学教室   鏑木  修  東北大学理学部天文学教室   河北 英夫  富士通宇宙システム本部   小池 国正   通信総合研究所   里 嘉千茂  東京学芸大学   下田 眞弘  東京学芸大学第三部地学教室   坪井  隆  名古屋大学理学部A研   出羽 光明  名古屋大学理学部物理宇宙分子   殿岡 瑞穂  名古屋大学理学部物理宇宙分子   船川 謙司  宇宙開発事業団 3.移動   池内  了  国立天文台 → 大阪大学理学部宇宙地球科学教室   内田  豊  東大理学部天文学教室 → 東京理科大学   岡保利佳子  理化学研究所宇宙放射線研究室 → 国立天文台野辺山宇宙電波 小田  稔  理化学研究所 → 国際高等研究所   久野 成夫  東北大学理学部 → 国立天文台野辺山宇宙電波観測所   古在 由秀  国立天文台 → 明治大学   佐々木敏由紀 国立天文台岡山 → 国立天文台光学赤外線天文学研究系   柴田 克典  国立天文台野辺山宇宙電波 → 国立天文台地球回転研究系   立松 健一  University of Texas → 茨城大学理学部物理学教室   近田 義広  国立天文台野辺山宇宙 → 国立天文台光学赤外線天文学研究系   長井 嗣信  気象研究所気候研究部 → 東京工業大学理学部地球惑星科学科   林  正彦  東京大学理学部 → 国立天文台光学赤外線天文学研究系   平原 靖大  東京大学理学部 → 名古屋大学理学部地球惑星科学科   三上 人巳  名古屋大学理学部物理宇宙分子 → 国立天文台野辺山宇宙電波   三好  真  東京大学理学部 → 国立天文台野辺山宇宙電波観測所   森本 雅樹  国立天文台野辺山宇宙電波 → 鹿児島大学教養部物理学教室   山本  智  名古屋大学理学部物理宇宙分子 → 東京大学理学部物理学教室   鷲見 治一   名古屋大学太陽地球環境研究所 → 湘南工科大学情報工学科   渡辺 尭  名古屋大学太陽地球環境研究所 → 茨城大学理学部物理学教室