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　第９８号　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１９９６年４月２３日
                    宇 電 懇 ニ ュ ー ス

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宇宙電波懇談会事務局発行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（国立天文台野辺山）
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

                                目　　　次
 ┌─────────────────────────────────┐ 
 │  I   ．宇電懇運営委員選挙結果 ..............................  1  │ 
 │  II  ．会費納入方法について ................................  2  │ 
 │  III ．宇電懇総会(1996.3.27)メモ ...........................  2  │ 
 │  IV  ．会計報告（平成６、７年度） ..........................  6  │ 
 │  V   ．ＮＲＯのＬＭＳＡ計画とＮＲＡＯのＭＭＡ計画との間で        │ 
 │        進めている協力関係について（石黒正人）...............  7  │ 
 │  VI  ．本観測目前───東大-Onsala-ESO-Chile                     │ 
 │        60cm サーベイ望遠鏡の近況───（長谷川哲夫）........ 10  │ 
 │  VII . 名大４ｍ鏡のチリ移設進行状況（大西利和）............. 12  │ 
 │  VIII．新博士の紹介 ........................................ 12  │ 
 │  IX  ．会員異動 ............................................ 16  │ 
 └─────────────────────────────────┘ 


           I．宇電懇運営委員選挙結果

　第IX期運営委員を選出するための投票は４月１２日で締め切られ、運営委員である川
辺良平氏立ち会いのもと、宇電懇事務局で開票しました。投票総数４７（５名連記）で
した。上位得票者は次の通りです。

　　順位　　氏　名 　　 （　所　属　）      　得票数（委員長としての得票数）

　　 １　 坪井　昌人（茨城大・理）　　　 　　　２２　 （　２）
　 　２ 　石黒　正人（国立天文台・野辺山） 　　１９ 　（　８）
　 　３ 　田原　博人（宇都宮大・教育）　　 　　１８　 （１３）
　 　４ 　川辺　良平（国立天文台・野辺山） 　　１２ 　（　１）
　 　５ 　長谷川哲夫（東京大・理）　　　　 　　１１　 （　６）
　 　６ 　小林　秀行（宇宙科学研究所）　　 　　１０ 　（　１）
　 　７ 　岩田　隆浩（通総研・鹿島）　　　 　　　９　 （　０）
　　　　　立松　健一（国立天文台・野辺山） 　　　９ 　（　０）
　 　９ 　水野　　亮（名古屋大・理）　　　 　　　７　 （　０）
　 １０ 　稲谷　順司（国立天文台・野辺山） 　　　６ 　（　３）
　　　　　亀野　誠二（国立天文台）　　　　 　　　６　 （　１）
　　　　　阪本　成一（国立天文台・野辺山） 　　　６ 　（　０）

　　１３　関本裕太郎（東京大・理）　　　　 　　　５　 （　０）
　　　　　谷口　義明（東北大・理）　　　　 　　　５ 　（　１）
　　　　　半田　利弘（東京大・理）　　　　 　　　５ 　（　０）
　　　　　福井　康雄（名古屋大・理）　　　　　 　５ 　（　０）

　　　　　　　以下　省略

　定員は１０名ですが、１０位得票者が３名あります。現運営委員会に諮った結果、今
期は１０位得票者全員を含む１２名（上記の阪本成一氏まで）で運営委員会を構成する
ことになりました（第Ⅶ期においても同様の取り扱いをしております）。また、委員長
は田原博人氏に決まりました。


             II．会費納入方法について

　会費は １，５００円／１年
 で、２年分ずつまとめてお支払願います。なお、１９９３年以前の分については
 １，０００円／１年 です。
  支払方法には、以下の２つの方法があります。
　　(１) 事務局に直接払い込む方法
   　　　　宇電懇事務局の西尾または砂田に直接お支払い下さい。
　　(２) 郵便振替により払い込む方法
　　　　   口座番号  長野00520-7-24142 番
   　　　　口座名称  宇宙電波懇談会事務局
郵便振替により送金して頂く場合、手数料は加入者(事務局)側で負担いたします。この
とき、振込みには赤インクで印刷した用紙を用いますが、この用紙は宇電懇事務局が持っ
ておりますので、西尾宛に電話、電子メールなどでご請求下さい。郵送致します。また、
これまでの納入状況などを確認したい方は、西尾または砂田までご連絡下さい。連絡先
は本号末尾にあります。


                   III．宇電懇総会メモ

         日時：１９９６年３月２７日（水）　１８：００ー１９：００
　　　　 場所：神戸大学理学部Ｙ２０２号室（天文学会Ｂ会場）

1.　宇電懇運営委員の選挙について

　　　宇電懇ニュース第９７号参照。投票締切：４月１２日（金）事務局必着。

2.　宇電ネット運用について

　ryunetを引き継ぎ、ＮＲＯで管理・運営を行っ
ていく。会員のメイルアドレスを公表してほしいとの意見があるので、メイルで各会員
の了承（個人分について公表してもよいかの）を得て、会員名簿に載せることにする。

　◆　　あなたの電子メールアドレスを会員名簿に掲載してよいかどうかを、◆
　◆　事務局の砂田和良にお知らせ下さい。連絡先は本号末尾にあります。  ◆

3.　会費の納入方法について

　　　　本号記事 II を参照。

4.　ＬＭＳＡ調査費要求について

　石黒（ＮＲＯ）より、計画の進捗状況および調査費要求の概要について報告があった
（この項末の資料１参照）。

5.　宇電懇シンポジウムについて

　川辺（ＮＲＯ）他から出されていた案（”ＬＭＳＡが開く１０ミリ秒角における天文
学及びＬＭＳＡ計画の推進”［資料２参照］）に、ＶＥＲＡ計画（特にサイエンス）を
加えたものを行うことが了承された。開催時期は、なるべく多くの機関の人が参加でき
るように配慮する（現案では７月末ー８月初め）。また、一昨年行われた宇電懇プレシ
ンポジウム（結局９５年度は、本シンポジウムの開催は見送ることとなった）の議論の
内容（資料３）が紹介された。世話人を次の通り決定した。
       世話人：三好　真（水沢）、坪井昌人（茨大）、阪本成一（ＮＲＯ）

6.　宇電懇の活性化について

　宇電懇運営委員会（3.27神戸大学）での議論をもとに、活性化のための提案が半田
（東大センター）からあった。提案された内容は次の通りである。

１)
 運営委員会の頻度を上げ、運営委員会の活性化を行い、宇電懇の活動内容を明　　確に
する。
２) ネットワーク（ryunetやwww）を積極利用して情報の伝達・公表につとめる。
３)
 宇電懇の活動の目標を明確にする。例えば、大型の科研費（e.g.重点領域）の　　組織
的なとりまとめ。
４) 各活動の担当者を明確化する。

これらの事については、次期の運営委員会で十分考慮してほしいとの意見（特に、科研
のとりまとめ役の人は早くに決定してほしい）があった。

7.　宇電懇事務局について

　もう１年野辺山宇宙電波観測所で受け持つ。９７年度には他のところに引き継ぐ予定。

                                        　　　　　　　　　（文責：川辺）

（資料 １）　ＬＭＳＡ計画の現状と今後

ＬＭＳＡ計画の基本的な姿勢
　獲得目標：10mアンテナ　×　５０台
　　　　　　80GHz(or 35GHz) - 850 GHzまでをカバー
　　　　　　300GHz以上で、0.01"分解能を目指す(最大基線長10km)
　建設サイト：チリ・サンペドロサイト（MMAと協力して10km基線を実現する場合）
　　　　　　　チリ・リオフリオサイト（LMSA単独で10km基線を実現する場合）
　　　　　　　　　(ハワイの可能性は残しておく）　
　スケジュール： 調査   １９９７ー１９９９年
                 建設　 ２０００ー２００５年

調査費要求
　１９９６年度に要求、１９９７ー１９９９年に実施予定。

国際協力
　　ＮＲＡＯ、ＳＡＯとの協力についての議論を継続中。現在の主なテーマは、Ｍ　Ｍ
Ａと結合し、10kmの基線長を得、１０ミリ秒角の空間分解能を達成するモード　（ＬＭ
ＳＡ／ＭＭＡ結合アレイモード、ただしそれぞれの計画の独自性は保った　上での協力）
について。この場合のサイトは、チリ・サンペドロ。日本(ＮＡＯ)　側米国側両者とも、
この案について積極的に可能性を追求する姿勢であり、今後　の検討を行って行く予定
である。今後の検討課題は、技術的・運用的な問題、　　0.01"分解能でのサイエンス等
についてである。

サイト調査
　　日本側はリオフリオで、ＮＲＡＯ側はサンペドロで、電波環境、気象条件の調　査
を　継続中。日本側としては、ＬＭＳＡ／ＭＭＡ結合アレイモードを考慮し、　サンペ
ドロでのＬＭＳＡサイト候補地（ＭＭＡサイトの約10km北）での電波環境、　気象条件
の調査を新たに開始する予定。

ＬＭＳＡ計画・建設スケジュール概要 

　１９９６　　　  調査費概算要求
　　　９７　　　　調査研究（設置場所の調査、設置場所確保のための交渉、技術　　
　　　　　　　　　　　　開発研究、国際協力運用体制の調査）
　　　９８　　  　調査研究（同上）
　　　９９  　　　調査研究（同上）、本予算要求
　２０００　　　　ＬＭＳＡ建設開始
　２００１ー０４  建設期間
　　　０５　　　　完成、試験観測
　　　０６　　　　本観測（共同利用観測）開始

ＬＭＳＡ調査研究年次計画（２年計画で実施する場合の概要）

　１年次　　　
　　　設置場所：観測環境、地形地質等の調査、関連機関との協議
　　　装置　　：研究・開発　（サブミリ波アンテナ、受信機システム、相関器シ　　
　　　　　　　　　　　　　ステム、位相補償法など）
　　　装置、施設の設置：国際協力の検討・協議
　　　国際協力、運用他：運用、共同利用体制の検討　　　

　２年次　　
　　　設置場所：サイトの決定、使用許可についての交渉・協定　
　　　装置　　：研究・開発の継続、及び総括
　　　装置、施設の設置：国際協力に関する協定
　　　国際協力、運用他：運用体制についての総括　　

（資料 ２）　宇電懇シンポジウムのテーマについての提案

　９６年度の宇電懇シンポジウムのテーマについて、以下の案を提案します。

　　テーマ　：ＬＭＳＡが開く１０ミリ秒角における天文学、及びＬＭＳＡ計画の　　
　　　　　推進
　　開催時期：７月末ー８月初め
　　内容　　：１０ミリ秒角における天文学
　　　　　　　国際協力、運用体制・建設体制、ＬＭＳＡ計画の進め方
　　　　　　　大学の将来計画とＬＭＳＡ計画、など　

　現在、ＬＭＳＡ調査費要求（９６年度に要求、９７ー９９年度に調査研究実施）の準
備やサイト決定のための調査を行う一方で、概算要求に向けてのＬＭＳＡ計画の詳細検
討を開始しています。そのため、これまで行ってきたＬＭＳＡ計画の技術検討や、ＬＭ
ＳＡの建設・運用体制、ＬＭＳＡの推進体制、サイト決定のための調査等をこれまで以
上に詰めて行く必要があります。そして、概算要求に向けて、電波天文学組織内での議
論を深め、日本の天文学の将来計画として魅力あり現実的な計画となるように、ＬＭＳ
Ａ計画の準備を周到に行って行く必要があります。また、ＮＲＡＯ、ＳＡＯ等との国際
協力についての議論を進めてきています。この議論では、新たに、ＬＭＳＡとＭＭＡの
両計画の独立性を保ちながらも、お互いが協力する事により、0.01"分解能の観測を実現
する結合アレイモード案が提案され、サイエンスや技術面・運用面での詳細な検討を開
始しています。日本側からは、
 "ミリ波サブミリ波干渉計による１０ミリ秒角の天文学"
 について、日米を中心とした国際的なワークショップの開催（時期：９６年１１月ー９
７年２月頃、場所：日本もしくは米国西海岸）を提案しています。これらの状況を踏ま
え、宇電懇シンポジウムで、以上のテーマについて議論検討していただきたいと思いま
す。

                                   川辺、稲谷、石黒、海部 （文責：川辺）

（資料 ３）　宇電懇プレシンポジウム
　　　　　　　　「大学における電波天文学将来計画と大型計画の関わり」

期日：  1995年10月28日　14時ー18時
場所：  野辺山宇宙電波観測所輪講室
出席者：面高（鹿児島大）、田原（宇都宮大）、坪井（茨城大）、半田（東大・セ　　
　　ンター）、水野（名古屋大）、山本（東大・物理）、石黒、稲谷、川辺、　　　　
阪本（野辺山）

基本的な問題意識　　～一極集中型から地方主導型へ～
　日本における電波天文学の研究は国立天文台とごく一部の大学の主導で進められてき
た．しかし，ＬＭＳＡやＶＳＯＰをはじめとする大型計画の推進には電波コミュニティ
の拡大が必要である．今後重要となる課題は，各地域で拠点大学を中核とする研究グルー
プを形成すること，学生にとっても地方大学を魅力的にすることである．これに関連し
て以下の2点に集約されるような提案がなされた．

1.  人事交流の活性化への提案
　　地方主導型への転換のためには人事交流の活性化が不可欠であり，具体的には　以
下のようなアプローチがあることが示された．
        ・客員制度を利用して天文台から大学に出ていく．
        ・内部昇格を認めない内規や任期付きポストなどを採用する．
        ・地方大学にサポート付きで人を出す．
        ・学生やポスドクの交換を行う．

2.  地方大学での研究環境向上のための提案
　　地方大学での他分野との鎬の削り合いに勝利するためには，電波コミュニティ　全
体が地方研究者の実績を目に見える形にすることに協力することが重要である．
        ・天文分野での表彰制度を充実する．
        ・組織的な科研費への申請を行い，地方研究者を共同研究者に含める．

                                                      （文責：阪本成一）


                         IV．会計報告

                      (平成６年度および平成７年度分)

平成６年度 　　　　　　　　　　　　　　　　　（単位：円）
  　---------------------------------------------------
　  繰越金                      　　　　  　    213,830
 　 ---------------------------------------------------
  　収入  会費（３９名）      　　　　      　  139,500
    　    寄付                        　　　　　 50,000
 　 ---------------------------------------------------
  　支出  通信費        　　　　          　     46,137
    　    NROシンポジューム旅費補助 (３名分)　  102,480
    　    NROシンポジュームお茶代　　　　     　  6,437
      　  葬儀生花代(法月惣次郎さん)　　　　　   15,000
 　 ---------------------------------------------------
  　残高                 　　　　         　    233,276
 　 ---------------------------------------------------

平成７年度
 　 ---------------------------------------------------
  　繰越金                       　　　　   　  233,276
　  ---------------------------------------------------
  　収入  会費（９名)           　　　　      　 55,000
 　 ---------------------------------------------------
  　支出  通信費                   　　　　     　2,719
    　    葬儀生花代(加藤龍司さん)  　　　　　   10,000
 　 ---------------------------------------------------
  　残高                         　 　　　　    275,570
  　---------------------------------------------------


V．ＮＡＯのＬＭＳＡ計画とＮＲＡＯの
　　    ＭＭＡ計画との間で進めてきている
    　　                協力関係について

    　　　　　　　　　　　　　　　　　　　石黒正人（国立天文台・野辺山）

１．はじめに

　現在、国立天文台（ＮＡＯ）の大型ミリ波サブミリ波アレイ（ＬＭＳＡ）計画と米国
国立電波天文台（ＮＲＡＯ）のミリ波アレイ（ＭＭＡ）計画との間の国際協力について、
日米間で具体的な議論が進められています。以下にその内容を簡単に報告します。

　ＬＭＳＡ（以前はＬＭＡ）とＭＭＡは共に１９８０年代当初より検討されてきた計画
であるが、日本では大型光学赤外線望遠鏡（すばる）計画が先行し、また米国ではＶＬ
ＢＡの完成が遅れ、やはり大型光学望遠鏡計画が先行したため、両計画共具体的な進展
が見られなかった。ところが最近になって、日本ではすばる望遠鏡の完成（１９９９年）
が間近となり、日本学術会議天文学研究連絡委員会で「２１世紀に向けた天文学長期計
画」が検討された結果、ＬＭＳＡが地上観測装置計画の最重点に位置付けられた。また
米国ではＶＬＢＡが完成し、地上観測装置計画の中でトップにランクされているＭＭＡ
の研究開発費の要求がにわかに現実性を帯びてきた。このような状況の中、１９９４年
１月にＮＲＡＯから日米協力についての非公式な打診があり、これを契機に日米間の議
論が始まることとなった。以下はこれまでの議論および具体的に進められている協力関
係の現状を簡単にまとめたものである。

２．日米協力に関する議論

（１）東京会議（１９９４年３月、国立天文台三鷹本部）
＠この時点では、ＭＭＡはミリ波専用で、サイトとしてはマウナケアを第一優先として
考えていたのに対し、ＬＭＳＡはサブミリ重視で、サイトはチリ北部の高地とマウナケ
アを共にサイト候補として調査を進めていた。
＠このような状況での可能な日米協力のモデルとして、以下の２つのケースが検討され
た。
ａ）マウナケアに統合アレイ（ミリ波＋サブミリ波）を設置し、共同運用する。
ｂ）南北半球にそれぞれ独立のアレイを設置し、観測時間や技術を共用する。

（２）ワシントン会議（１９９４年６月、スミソニアン博物館）
＠この会議から、マウナケア山頂にサブミリ波アレイ（ＳＭＡ）の建設計画を進めてい
るスミソニアン天文台（ＳＡＯ）も議論に参加することとなった。
＠ＭＭＡは３ｋｍ基線が必要なため、マウナケア山頂より標高の低いＶＬＢＡサイトを
サイト候補として選定。
＠ＬＭＳＡはサブミリ波重視のためマウナケアの場合であれば山頂をサイト候補として
選定。したがってＭＭＡよりはむしろＳＭＡとの関係が大きくクローズアップされた。
＠サイト調査をそれぞれの機関が分担し（マウナケア山頂［ＳＡＯ］、マウナケアＶＬ
ＢＡサイト［ＮＲＡＯ］、チリ北部［ＮＡＯ］）、測定データを相互に交換することと
なった。

（３）ソコロ会議（１９９５年１月、ニューメキシコ州ソコロ）
＠ＮＲＡＯは独自にでチリ北部のチャナントール付近（標高５０００ｍ）の調査を行い、
極めて良好なサイトである感触を得たため、１９９５年５月にサイト調査用測定装置の
設置し、本格的なサイト調査を行うことを決定。
＠ＮＡＯはチリ北部の４ケ所に気象測定装置を設置し、既に測定を開始。また、１９９
５年７月にチリ北部のリオフリオにサイト調査用測定装置の設置し、本格的なサイト調
査を行うことを決定。装置の設計などはＮＲＡＯと協力して進められた。

（４）ツーソン会議（１９９５年６月、アリゾナ州ツーソン）
＠チリ北部の気象測定データにもとづくチリ北部の気象の傾向について、またチャナン
トール地域でのサイト調査の開始状況について報告があり、初期の測定データからは同
地域がマウナケアよりかなり良好な傾向を示していることが明らかとなった。
＠色々な能動位相補償法を前提としたアンテナ配列について共同で検討を行った。

（５）野辺山会議（１９９５年１１月、国立天文台野辺山）
＠この時点ではＭＭＡのサイト選定がかなりチリに傾いてきた。そのため、ＬＭＳＡが
マウナケアでＭＭＡがチリという可能性は残っているものの、両装置が共にチリに設置
される場合の協力の可能性について会議のほとんどの時間を使って検討が行われた。
＠両装置をチリに設置する場合、それぞれのサイトが隣接していないと、インフラの共
有や結合したより大型のアレイの実現などのメリットが無いことでＮＲＡＯとＮＡＯの
認識は一致した。しかし、予算獲得の成否も明らかではない現状では、それぞれの計画
はお互いに悪い影響を与えないように独立して進められるべきであり、結合によって
「より強力な（集光力と分解能が高い）装置」に生まれ変わるような協力のあり方を模
索することとなった。

（６）ハワイ会議（１９９６年３月、ハワイ州ホノルル）
＠ＬＭＳＡの目標を最高０．０１”（最大基線長１０ｋｍ）に設定したことから、ＬＭ
ＳＡサイトとしてマウナケアを選択する可能性は極めて薄くなり、日本としてはチリを
第一優先とすることとなった。この場合、ＭＭＡと協力して１０ｋｍ基線を実現する場
合はサンペドロ地域を、またＬＭＳＡ単独で１０ｋｍ基線を実現する場合はリオフリオ
地域を選定する方向であることが表明された。ＬＭＳＡは２００５年完成予定。
＠ＭＭＡサイトはサンペドロ地域のチャナントールを選定し、サンペドロ地域約２０キ
ロメートル四方をサイエンス地域としてチリ政府に保護申請する予定。ＭＭＡの建設費
を負担するパートナーとしてオランダとＮＡＳＡが候補に上がっている。ＭＭＡは２０
０６年完成予定。
＠上記の新しい展開をふまえ、サンペドロ地域での両計画の協力を想定した結合アレイ
モードを実現するにあたって考慮すべきアンテナ配列と装置の互換性について詳しく検
討した。また、協力した場合の経費節約が可能な項目のサーベイを行い、今後詳しく評
価することとなった。
＠１９９６年末に、東京または米国西海岸で「０．０１”分解能によるサイエンス」に
関する日米を中心とする国際ワークショップを開催することとなった。また、これ以前
にも２回ほど機会をとらえて協力のための日米協議を継続することとなった。

３．これまで行ってきた具体的な協力

＠ＮＡＯとＮＲＡＯは、ＬＭＳＡおよびＭＭＡのための最適なサイトを決定するという
共通の目的をふまえ、以下の項目について協力するむねの覚え書き（１９９５年５月）
を交換して具体的な共同作業に進めている。
ａ）マウナケアとチリでのサイト調査データを共有する。
ｂ）サイト調査のための装置、施設、人を共有する可能性を探る。
ｃ）共通の専門家達により、アンテナ配列の検討を共同して進める。
ｄ）技術者や科学者による報告書の交換や相互の訪問により、それぞれのアレイのため
の技術開発を共有する。
＠上記の協力の第一歩として、ＮＲＡＯのＭ．ホールダウェイ氏が１９９５年２月ー３
月野辺山に滞在し、野辺山５素子シーイングモニターのデータを共同で詳しく解析し、
実際にサイト調査で行っている１基　線での地球大気による位相ゆらぎの評価法が確立
した。
＠チリ北部でのサイト調査装置の設計について相互に協力し、装置の一部は共同で校正
試験を行った。
＠１９９６年４月、再度Ｍ．ホールダウェイ氏が来日し、サンペドロ地域でＬＭＳＡと
ＭＭＡの結合アレイモードのためのアンテナ配列の共同研究およびサイト調査データの
相互比較作業を行っている。


                     VI．本観測目前！

           －東大-Onsala-ESO-Chile 60cm サーベイ望遠鏡の近況－ 

                      長谷川哲夫（東京大学理学部天文学教育研究センター）

　私たちは、東大 60cmグループ、オンサラ天文台、ESO（ヨーロッパ南天天文台）、
およびチリ大学天文学教室の国際共同プロジェクトとして、1994年にチリ共和国に60cm
 サーベイ望遠鏡二号機を移設し、その後受信機の設置・調整を行ってきた。
 1995年９月に、受信機初段のミクサーが壊れるトラブルに見舞われたが、その修理もで
き、1996年２月にテスト観測を再開した。
　望遠鏡は、高分解能近赤外イメージなどで有名な NTT（New Technology Tele- 
 scope）や、南半球で唯一のミリ波・サブミリ波望遠鏡 SEST（Swedish-ESO Sub- 
 millimetre Telescope：口径 15m）などを擁する ESO ラシヤ（La
 Silla）天文台内の、SEST の南隣に設置されている。観測制御卓は SEST
 観測棟内の一角に設けられ、日本から派遣された 60cm
 グループのメンバー（スタッフおよび大学院生）により半自動観測モードでオペレート
される。移設前の現地調査を含め、これまで東京よりのべ
 21名が現地を訪れ、望遠鏡の立ち上げやテスト観測を行ってきた。その結果、サイエン
ティフィックなデータの本格的な取得開始にいま一歩のところまでこぎ着けることがで
きた。図１は今年３月のテスト観測で得た、銀河系中心の
 CO J=2-1 輝線スペクトルである。東大グループが製作して持ち込んだ帯域幅 1GHz
 の音響光学型電波分光計（AOS）と、銀河系中心が天頂近くまで上る南半球の利点が威
力を発揮して、±450km/s
 にわたる平坦なベースラインが得られている。テスト的な銀河面サーベイや特定領域
（η
 Car 領域など）のマッピングも行われている。
　図２は南十字星の左下にくっきりと見える暗黒星雲、「南の石炭袋」
（SouthernCoalsack）のスペクトルである。南天には他にもカメレオン暗黒星雲など、星
の誕生の研究に重要な暗黒星雲が多数存在する。
　図３は大マゼラン雲中の巨大分子雲複合体をテスト的に観測したスペクトルである。
この金属量が少なく、現在非常に活発な星形成を行っている銀河の中の分子ガスが、銀
河系のそれとどのように異なっているか、今後の本観測が楽しみである。
　すでにこれまでの観測から、領域による CO 2-1/1-0
 輝線強度比の際だつ違いが明らかになってきている。現時点では、望遠鏡と受信機の光
学系との間にミスマッチがあり、ビームサイズが
 11’（設計値
 9’）とやや太めであるが、４月末までに光学系を修正してその問題を解決し、５月か
らいよいよ本観測を開始する予定である。
（本研究は長谷川の他に、半田利弘、林 正彦、阪本成一、岡
 朋治、瀬田益道、佐藤功美子、徂徠和夫、森野潤一、Roy Booth、Peter
 Shaver、Lars-Ake Nyman、   Leonardo Bronfman
 が参加して、文部省科研費「国際学術研究」および東レ科学振興会第30回研究助成の補
助を受けて行っている。）


     VII．名大４ｍ鏡のチリ移設進行状況

                                           大西 利和（名古屋大学理学部）

　名古屋大学の４メートル電波望遠鏡の移設工事が、アンデス山脈・アルカイーノ峰
(標高2,367m)でほぼ完了した。受信器、計算機などの設置を経た後、本年７月に本格的
観測をスタートさせる予定である。
　南天には、おおかみ座暗黒星雲や、カメレオン座暗黒星雲等の我々に近い星形成領域
が存在し、また、我々の銀河系に最も近い銀河である大小マゼラン雲など電波での重要
な観測対象がある。しかし、この様な観測ができる本格的な望遠鏡は南半球にはわずか
しかない。このため、我々のグループでは４メートル鏡のチリ移転を計画した。チリは
降水量が少なく、晴天率７０％であり、観測には絶好の場所である。
　名古屋大学の構内に設置され、５年間にわたって観測を続けてきたこの望遠鏡は、昨
年１０月末に解体され、１２月中旬に特注の木箱４個と２個のコンテナに分けて船積み
され神戸港を出港した。今年１月１８日に海路、チリのバルパライソ港に到着し、さら
に約６００km離れたラス・カンパナス天文台へ陸送された。また、２月初旬からは望遠
鏡設置のための基礎工事が行われた。３月上旬に主鏡部が望遠鏡本体に取りつけられ、
望遠鏡の設置作業はほぼ終了した。現在、水野亮助手と大学院生１名が天文台に滞在し、
観測環境の整備、望遠鏡のポインティングのチェック等を行っている。５月からは、水
野助手と大学院生２名が滞在することになる。現在のところ、作業は順調に進んでおり、
７月にも本格的観測をスタートさせる予定である。その後、約５年かけてマゼラン雲の
全面観測、南天の主な星形成領域の探査等を行う予定である。この望遠鏡の移設は、文
部省からの移設費の他、民間の企業、個人の寄付が寄せられ実現可能となった。


                     VIII.　新博士の紹介

１. 越石　英樹　氏

　東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻　課程博士　１９９６年３月

　論文題目：A Deep-CLEAN Imaging Method Applied to the Nobeyama Radio-
            heliograph, and Observations of Polar-Cap Brightenings and
            Their Association with Coronal Holes
            （ディープクリーン法の野辺山電波ヘリオグラフへの適用、及び
　　　　　　　極冠増光の観測とそのコロナホールとの関連に関する研究）

　論文要旨：

　国立天文台野辺山太陽電波観測所の電波ヘリオグラフは太陽観測専用の電波干渉計で
ある。その装置及びデータ処理法は太陽フレアの物理過程解明を主たる目的に最適化設
計が行われ、実際にフレアを解析するに十分な画質の画像が得られることが観測開始後
の初期段階で報告されている。一方、「観測」はフレアのみならず低輝度の静穏な構造
についても行われているが、実際に処理された画像にはこれらの構造ははっきりと「表
示」されていない。本論文ではこれら低輝度構造物を解析する際の、ヘリオグラフの画
像再生に於ける問題点及び改良点、またこれにより明らかになった諸現象の内、特に太
陽の極冠増光の性質と、そのコロナホールとの関係について述べた。さらに他の諸現象
については画像を示して、簡潔に紹介した。
 
 電波ヘリオグラフでは、電波源が複数の幅のガウス空間分布の集合であるという仮定を
用い、個々の電波源についてその幅を評価して
  CLEAN 処理を行っている。このアルゴリズムはヘーグボム (1974)
 によって提案された古典的アルゴリズムと同様に、電波源が点源から構成されていると
いう近似が良く成り立つ状況では有効であるが、拡がった電波源が存在する場合にはそ
れらがブツブツに切れて再生され、正確な像が再現出来ない。このため
  CLEAN
 処理は本論文が目的としている低輝度構造物より高い輝度温度で打ち切られており、こ
れらの構造については画像再生が行われていない。
 
 本論文では、広がった、低輝度構造物についても画像再生を行いその解析を可能にする
ために
 Steer (1984)
 により提唱されたアルゴリズムのヘリオグラフへの応用を検討、評価した。ついで、較
正後の観測相関値に残留する位相、振幅誤差の画像上への影響を定量的に評価し、ノイ
ズレベルの３倍程度まで
 CLEAN
 処理を行う事が可能であることを示した。従来用いられるアルゴリズムではこの値は３
０倍であり、つまり、
  Steer
 アルゴリズムが拡がった電波源を装置性能の限界近くまで再生する優れた方法であるこ
とを証明した。
 
 ヘリオグラフでは独自の自己較正法により相関値の較正を行っている。画像上の電波源
の絶対位置は太陽円盤を基準にして求められており、このため太陽円盤の中心位置の評
価誤差は電波源の位置精度の劣化につながる。また、較正後の観測相関値に残留する位
相誤差も電波源の位置精度の劣化の要因となる。この２つの要因について考察し、画像
上の電波源の位置精度について評価、改善を行った。
 
 この新しい画像再生法により、低輝度の静穏な構造の解析が可能な高品質画像が得られ
るようになり、この画像を駆使して極域に見られる増光及び極域から低緯度域に伸びる
増光について新たな知見を得た。極域に於ける輝度温度１０００度程度の台地状に拡がっ
た増光構造は従来から知られていたが、それに加えて２０００度以上のパッチ状の増光
構造があることが見い出された。また、５００度程度の台地状の増光構造が時には極域
から低緯度領域に伸びていることが見られた。これらについては、事例は少ないが、
 軟X線画像との比較によりコロナホールと対応する場合としない場合があることが分かっ
た。さらに、台地状の極域増光は太陽活動とは反相関の傾向を持つことが知られている
が、このことは期間は短いが、多数のデータで再確認出来た。

２. 西山　広太　氏

　総合研究大学院大学 数物科学研究科 天文科学専攻　課程博士　１９９５年９月

　論文題目：Statistical Study of Molecular Gas in Nearby Spiral Galaxies

　論文要旨：

　銀河における分子ガスの研究は銀河の多様性、進化を考える上できわめて重要である。
これまでの十数年、系外銀河の分子ガスの観測は数百の銀河に及ぶが、分子ガスの分布
と速度構造についてある程度の高い分解能(渦状腕や棒状構造などを分解できる)をもっ
た観測は多くはなく、そこから得られた結果が他の銀河でも見られる一般的な現象なの
か、それともその銀河特有の現象なのかは十分明らかにはなっていない。野辺山45m鏡
を使い、32個の渦状銀河を十字にマッピング観測を行い、これまでにない多数の系外銀
河の分子ガスの動径分布とその速度構造を明らかにした。
　サンプルは形状との関係を明らかにするためにいろいろなタイプ（ハッブルタイプで
早期型(Sab)から晩期型(Scd)、棒状構造を持つものと持たないもの）の銀河を含めるよ
うにし、銀河固有の性質を明らかにするために比較的他の銀河との相互作用の少ないも
のを選び出した。
　結果として
１.
 棒状構造をもたないほとんどすべての銀河では、分子ガス密度のピークを分子ガスから
求められた回転曲線で
 differential rotation から rigit rotation
 へと回転の様子が変化する領域に持っている。これは、粘性 (viscosity)
 によってガスが角運動量を失い中心方向へinfallするするとした viscous disk
 model(Saio andYoshi 1991, Fukunaga 1986) から予想される描像と一致する。
２.
 棒状銀河では棒状構造を持たない銀河に比べ、より中心に集中したガス分布を持ってい
る。棒状ポテンシャル中ではガスの銀河中心方向への
 infallが生じ(San-ders and Huntly 1977, Roberts et al
 1979)、粘性によって棒の先端にあたる部分にinfallしたガスが、棒状構造によりさらに
内側にinfallしていると考えられる。すなわち、基本的にはすべての銀河において粘性に
よって分子ガスが銀河中心方向へinfallしており、棒状銀河はその棒状ポテンシャルによっ
てさらに内側へとガスが落下している。
３.
 棒状銀河の回転曲線は観測する軸と棒の長軸とのなす角により変化する。棒状ポテンシャ
ル中ではガスは非回転運動（Wada
 and Habe 1992, Roberts et al.
 1979)をしているため、観測軸に対する棒軸の向きによりその様子は大きく異なる。銀
河の長軸方向と棒の長軸方向が一致する銀河(NGC7331,NC5236など)では棒の先端まで
つづくrigid
 likeな速度構造を示し、一方、棒を横切る軸からでの得られた中心領域で急激に立ち上
がる回転曲線に似た構造を示す(NGC4303,NGC6951など)ことがわかった。

３. 森野　勇　氏

　総合研究大学院大学 数物科学研究科 天文科学専攻　課程博士　１９９６年３月

　論文題目：Far-Infrared and Infrared Spectroscopy of Transient Molecules
 　　　　　　of Astronomical Interest
　　　　　　（星間分子の遠赤外・赤外フーリエ分光）

　論文要旨：

　星間分子線の観測は星間空間における分子雲の密度や温度等の物理状態及び分子
の生成過程を理解するために非常に重要な役割をもち、ミリ波領域を中心に盛んに
行われ多くの知見を得られている。水素化合物のような軽い分子の観測は、星間化
学反応の理解のために不可欠であるが、これらの分子種の遷移はサブミリ波・遠赤
外領域にあるために限られていた。近年の観測技術の著しい発達によりサブミリ波
・遠赤外・赤外領域の観測が可能となってきた。しかしながら、この為の分子の基
礎データはまだまだ少ない状況である。そこで本研究では、星間分子として重要な
分子種の実験室分光をおこない、そのいくつかの結果を今までの観測結果に適用し
た。
　実験室における遠赤外フーリエ分光法は系統的に高分解能分光を行えるほとんど
唯一の方法であるが、検出感度の問題で安定分子の分光にしか応用されてこなかっ
た。そこで、遠赤外光が通過するのに適切な窓材を選択し、光路の水蒸気を除去し、
多重反射型吸収セルを組み合わせることにより、初めて遠赤外フーリエ分光法の検
出感度を不安定分子の分光に適用できる程に向上させることに成功した。そして、
SH、NH２、NHD、及び ND２ラジカルの純回転スペクトル、NH２OH の OH
 ねじれ振動バンドの振動回転スペクトルの測定に適用した。SH
 ラジカルの測定は遠赤外フーリエ分光を不安定分子に応用した初めての例であり、解析
の結果
 4.5 MHzの精度で遷移周波数を予想することが出来た。約 600 本の
 NH２、NHD、ND２ の純回転遷移と約  5000 本の NH２OH
 の振動回転遷移を系統的に高分解能測定し、精度良い分子定数を決定した。
　赤外発光分光法は吸収分光に比べ高感度で高励起状態の情報が得られることが特
徴である。また、振動回転スペクトルの強度異常(Herman-Wallis
 効果)解析を行うことにより、振動遷移モーメントが決定できる。これは、赤外天文観
測において分子の存在量を見積もる為に必須の情報である。CD
 及び １８OH
 の振動回転遷移の発光スペクトルをフーリエ分光器で測し、解析により精度良い分子定
数を決定し、強度解析からCHの振動遷移モーメントを求めた。
　最近行われた Orion-KL
 のサブミリ波観測とSHラジカルの予想周波数を比較したが、検出されず、柱密度の上
限値を見積もった。その結果、硫化水素の生成機構を理解するために、さらに探査が必
要であることが明らかになった。また、Orion-KLと
 Sgr B2 のミリ波・サブミリ波ラインサーベイ観測データと NHD
 の予想周波数を比較したが、検出されなかった。本研究で求めた振動遷移モーメントを
用いて、晩期型星
 TX Psc
 の赤外吸収スペクトルからCHの柱密度を決定した。その値は、希薄な分子雲とほとん
ど等しいことが分かった。


                         IX．会員異動

１. 移動

　浅井紀久夫　　名古屋大学太陽地球環境研究所　→　放送教育開発センター
　岡　　朋治　　東京大学理学部天文学教育研究センター
　　　　　　　　　　　　→　理化学研究所宇宙放射線研究室
　奥村　健市　　東京大学理学部天文学教室
　　　　　　　　　　　　→　郵政省通信総合研究所先端光技術研究センター
　川尻　矗大　　宇宙開発事業団
　　　　　　　　　　　　→　(株)日本レコードマネージメント 新規事業開発室
　坂本　　和　　東京大学理学部天文学教室 → 国立天文台野辺山宇宙電波観測所

★　所属の変更等がありましたら、宇電懇事務局の砂田和良にご連絡下さい。


┌───────────────────────────────────┐
│                                                                      │
│               宇宙電波懇談会事務局                                   │
│                                                                      │
│  　　　　　　　 〒384-13　長野県南佐久郡南牧村野辺山                 │
│　　　 　　　　　　　　　　　　国立天文台　野辺山                     │
│                                                                      │
│      川辺　良平（事務局長）                                          │
│      砂田　和良（庶務担当）                                          │
│      中野　武宣（ニュース担当）                                      │
│      西尾　正則（会計担当）                                          │